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尼崎市東七松町にある「まつうら内科」院長 松浦邦臣です。ワクチン接種も本格化し1日60万回接種ともいわれるようになりました。オリンピックを是が非でも開催したい政府の本気度が見えますが、自粛生活を強いられている国民世論は開催への反発も強く、もう1-2か月はやく接種をおこなっていれば世論の風向きもかわっていたかもしれませんね。
【プリン体はうまみ成分】
さて、最近ブログがコロナ関連ばかりだったので、今回は夏においしいビール(に含まれるプリン体)について投稿しましょう。そう、うまみ成分であるプリン体から生成される「尿酸」のお話です。実は明治時代初期には日本に痛風はほとんど無く珍しい疾病だったようです。その後、食生活の欧米化の影響(肉食、内臓類の摂取、飲酒、果糖の摂取、ストレス、肥満)をうけ患者数はどんどん増加し、いまや痛風は140万人、高尿酸血症の患者さんに至っては1000万人時代を迎えるのだそうです。
「お酒はビール以外なら良いんでしょ」なんてことはありません。お酒の種類にかかわらずアルコールが分解される際に尿酸が生成されるため、結局飲みすぎればどのお酒でも同じです。ビールなら500ml, 日本酒1合、ウィスキーならダブル1杯を1日の目安とし、さらに週2日は休肝日としましょう。また牛、豚、鶏の内臓部分や魚介類の干物にはプリン体が多く含まれますが、それ以外の部位でもたくさん食べれば、当然プリン体の摂取量は多くなります。プリン体はうまみ成分なのですから、おいしいものの食べ過ぎには注意が必要です。
【日本人は元来、尿酸排泄が苦手】
尿酸は、普段から体内に男性で約1200mg、女性で600㎎がプールされています。ここに1日あたり約700-800㎎のプリン体が入ってきますが、ほぼ同量の尿酸がプールから排泄され尿酸プールは一定量に維持されます。排泄は約2/3は腎臓から、のこりのほとんどは腸管から排泄されます。とくに腎臓では尿酸のろ過と分泌・再吸収を行うのですが、古来日本人はプリン体が少ない食生活であったため、多量の尿酸を排泄する必要がなく、近代になっても体質的に尿酸排泄が苦手とされています。事実、高尿酸血症の患者さんの8割でなんらかの尿酸排泄低下が関係(排泄低下型6割、尿酸排泄と産生過剰の混合型2割)しています。ここで排泄しきれない尿酸が痛風のリスクとなっていることは間違いないですが、はたしてそのほかの疾患でも増悪因子となるのでしょうか?
【尿酸値との関連性がある疾患ない疾患】
◎痛風
余剰な尿酸が、ナトリウムと結合することで結晶(MSU結晶)となり、これが関節内に沈着すると何らかの刺激により関節炎を発症します。いわゆる「痛風」です。「風が吹いても痛い」とされるほどの激痛で、このときだけは短期間で鎮痛剤(ナイキサンなど)を倍量投与することが許されています(NSAIDsパルス)。炎症がおちつけば、今度は尿酸を投薬などで下げていくわけですが、厳密に6.0㎎/dL以下に下げた方が結晶がよく溶けることがわかっています。ちなみに結晶が全部溶けきるまでは、刺激によっては痛風発作をおこすことはありえますので、治療中に痛風がおきても、心が折れて服薬をやめることがないようにしましょう。
〇尿管結石、腎結石(シュウ酸カルシウム結石、尿酸結石)
尿中尿酸値の上昇は尿pHをさげることで尿酸結石を形成する一因となります。また尿中におけるシュウ酸カルシウムの溶解度を下げて結晶を析出させるので、シュウ酸カルシウム結石の発症も促進すると考えられています。尿酸排泄促進剤は医原性に尿中尿酸値を上昇させるので、治療中は尿のアルカリ化や十分な飲水をおこなって尿路結石の予防に努めましょう。一方で腎結石症を有する高尿酸血症患者における尿酸降下療法(ULT)は結石再発リスクをあきらかに低下させるとの報告があります。
〇腎障害を有する高尿酸血症
上記の患者さんに、尿酸生成阻害剤を投与したところ、投与しなかった患者さんと比べて、腎障害の進行が抑制できたとの報告がいくつかあります。ただそれぞれに症例数が少なく観察期間も短いことから、さらなる臨床研究が待たれます。
△高血圧、心血管疾患、糖尿病
高尿酸血症がこれらの疾患において発症・進展予後との関連性があるのでは?ということが示唆され始めてはいるものの、残念ながら、現時点でその因果関係についてはまだ明確になっておらず、強いエビデンスとは言えません。
✖脳卒中
脳卒中患者において、尿酸値と発症・生命予後、機能予後への関連性は明らかではありません。
【高尿酸血症は絶対に治療すべきか】
以上をふまえると、尿酸が高く、かつ痛風歴のある方、尿路結石歴のある方、腎不全の方は治療したほうがよいでしょう。一方で、これら既往・併存症がない方を治療すべきかどうかは迷うところです。私は、いまのところ8.0-9.0mg/dLぐらいまでは薬の投与はせずに食事指導のみとしていますが、今後高血圧や心血管病、糖尿病における発症・進展予防のエビデンスが出れば、その都度、方針を変えていこうと思っています。