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新型コロナウィルス感染症(COVID-19):治療薬

2020年11月(予定)に尼崎市東七松町に新しく開院する内科、呼吸器内科クリニック「まつうら内科」院長の松浦 邦臣(まつうら くにおみ)です。

今回は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の治療薬についてコメントしていきたいと思います。

 

このブログを書き始めたちょうど今、イギリスオックスフォード大学から、重症COVID-19の治療薬としてステロイドの一種「デキサメタゾン」が有効であったという発表がありました。具体的には「人工呼吸器を使用していた患者でおよそ35%、酸素マスクを使用していた患者でおよそ20%死亡率が減少した」という内容です。一方で「酸素投与を必要としてないかった患者では差はなかった」ともあります。この報道内容をどう理解すればよいかを解説します。

 

【浮かんでは消えていった治療薬候補】

一口に治療薬といっても、①ウィルスそのものにダメージを与える薬、②ウィルスそのものには効かないが、重症化を抑える薬の2種類があります。

 

①として期待されてているのが、ファビピラビル(アビガン:インフルエンザ治療薬)、レムデシビル(エボラ出血熱治療薬)、ナファモスタット(フサン:膵炎治療薬)、

 

②として期待されているのが、トシリズマブ(アクテムラ:リウマチ治療薬)、シクレソニド(オルベスコ:吸入ステロイド)、そして今回報道されたデキサメタゾン(ステロイド)

このあたりが日本で使えそうな薬ですかね。

 

①を見ていただくと、これらの薬はもともと別の病気の治療薬です。COVID-19のための薬ではないのですから、効果がなくても仕方ないといえば仕方ありません。期待されていたファビピラビル(アビガン)も今のところ国の正式承認には至っていません。ただCOVID-19に罹患しても80%は無症状~軽症ですから、これらの患者さんに薬が絶対に必要かというと、そうではありません。

 

薬が必要なのは重症化する20%の患者さんたちです。なぜ重症化するか?。そこに「サイトカインストーム」が関与しているといわれています。ウィルスに侵入された身体は、それを抑えるべく、炎症を引き起こす物質(サイトカイン)を放出します。ところがこれが嵐(ストーム)のように乱発されてしまうと、過度に引き起こされた炎症自体で肺がどんどん壊れてしまいます。これが「サイトカインストーム」です。最近の研究では、COVID-19が引き起こすサイトカインストームの中で、とくにIL⁻6(インターロイキン-6)の関与が大きいということがわかってきました。

 

②をみていただくと、これらはすべて免疫抑制剤です。トシリズマブ(アクテムラ)は、このIL-6をピンポイントで抑える薬で、実際、重症化抑制効果があると期待されています。しかし非常に高額で1回の治療にトシリズマブだけで9万円かかります。これだと医療費にお金のかけられない途上国での治療は難しいでしょう。そこでトシリズマブほどではないが、IL-6を少しでも抑えてくれる安価なステロイドが用いられたのです。西欧では一般に、薬そのものの性能よりも、コスト対効果が優先されます。つまり良い薬でも高すぎれば使われません。ステロイドはコスト対効果が良いと判断されたのでしょう。

 

【ステロイドは効くの? 効かないの?】

最初の話題にもどると、「酸素投与を必要としてないかった患者では差はなかった」理由がここにあります。「酸素投与を必要としてない=サイトカインストームがまだ起こっていない」ため免疫抑制剤が効くポイントがなかっただけです。しかも「人工呼吸器を使用していた患者でおよそ35%、酸素マスクを使用していた患者でおよそ20%死亡率が減少した」の裏を返せば、重症COVID-19の2/3以上の患者さんにステロイドは無効ということです。実際、中国の報告ではステロイド投与は無効であったとされています(※データのとり方によって、ある報告では有効で、ある報告では無効となることは医学論文ではよくあります)。ステロイドの有効性についてはもっともっとデータを蓄積して正確性を増していく必要があります。
 

 

以上から、ステロイドが効くか効かないかを問われれば、「特効薬ではないが、無いよりマシ」といえるでしょう。もっといえば②よりもやっぱり①の薬が待ち遠しいです。

 

※新型コロナウィルス感染症についてはまだ解明されていない部分も多く、あくまで2020年6月時点での私見であることをご了解ください。

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