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尼崎市東七松町にある「まつうら内科」院長 松浦邦臣です。新型コロナウィルス感染症にたいして、第4の治療薬「ロナプリーブ」がいよいよ特例承認されました。特例承認とは、日本と同等水準の医薬品承認制度を持っている国(アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツの5か国)で緊急使用許可を含む承認をうけた医薬品のみが対象となります。ちなみにこの薬はすでにアメリカ、ドイツ、フランスで緊急使用許可を得ていますが、正式承認は日本が初になります。これまでの3つの治療薬と違い、本剤は初となるCOVID-19専用の治療薬ですので、今回はこの「ロナプリーブ」についてまとめてみました。
【抗体カクテル療法】
ロナプリーブには人工的に製造された2種類の抗体「カシリビマブ」と「イムデビマブ」が含まれる注射薬になります。なんとかマブ(-mab)というのは「抗体医薬品」に使用される表記で、近年リウマチ領域を筆頭に数多く治療薬として承認されています。今回この人工抗体を複数混ぜて使用することから、アルコールとジュースを混ぜて作られるカクテルになぞらえて「抗体カクテル療法」と呼ばれています。この製剤は アメリカのリジェネロン社が開発し2020年にトランプ前大統領に投与されて一躍有名になりましたが、その後スイスのロシュ社に権利を譲渡、日本では提携会社である中外製薬がプロモーションを担当しています。ロシュ社といえばインフルエンザ治療薬タミフルを開発した世界一位の製薬会社であり、今回も他の製薬会社に先んじた形となりました。
【ワクチンと抗体療法の違いは?】
コロナウィルスの表面にはスパイクといわれるたんぱく質構造があり、これがヒトの細胞と接触すると、細胞内へのウィルス侵入がはじまり →細胞内増殖 →体外放出というサイクルがスタートします。中和抗体はこのスパイクと結合することで、ヒト免疫にウィルスを異物として認識→排除させる役割があり、結果として体内のウィルス量を激減させることで重症化を、また他者への感染拡大も抑制することが可能となります。抗体という面ではワクチンも抗体療法も同じ免疫メカニズムを利用することになりますが、ワクチンは感染成立前に投与することでその後一定期間体内で自動的に中和抗体が産生される予防的応対であるのに対して、抗体療法は感染成立後に体外から中和抗体を補填することでウィルスを減少させる治療的応対となります。
【COVID-19による入院または死亡のリスクを70.4%減少、また有症状期間を4日間短縮】
さて、臨床では薬剤を溶解後、生理食塩水100cc程度に混和した場合、インラインフィルターを介した点滴を用いて約20分1回投与で終了となります。特別承認の根拠となった海外での治験<REGN-COV267試験>では、「入院には至っていない(=酸素投与を必要としない)、少なくとも1つ以上の重症リスク因子(50歳以上、肥満、高血圧を含む心血管疾患、慢性肺疾患、糖尿病、慢性肝疾患、慢性腎疾患、免疫抑制状態)を有するCOVID-19患者」を対象に点滴投与が行われました。結果、投与から1か月以内に入院または死亡するリスクが70.4%減少、また有症状持続時間が、偽薬群(プラセボ)に対して4日間短縮できたと報告されました。副作用はアナフィラキシーを含む重篤な有害事象が1.1%、発熱や皮疹、掻痒などの一般的なアレルギー反応が0.2%と報告されています。
一方ですでに高濃度酸素療法をうけている、もしくは人工呼吸器を使用している患者に投与すると、症状が悪化するという報告があることや、今回の治験がすでに抗体を有している患者さんは対象外としていることから、ワクチン接種後(=抗体を有している)に感染した患者に対して投与して効果があるのか?問題はないのか?など、今後検証しなければいけない課題もあるといえます。
【コロナと診断されれば、すぐに投与を受けることができるのか?】
ロナプリーブは、コロナと診断されればすぐに投与をうけることが理想(酸素投与者、無症状者は除く。ワクチン既接種者は検討未)といえます。しかし厚生労働省からの通達によると、ロシュ社から全世界的な供給はまだ安定しておらず、日本への流通も限られたものになるとのこと。また抗体療法で使用される-mab製剤は基本的にどれも高価で、ロナプリーブもおよそ4万円以上はするだろうと言われています。このため新規陽性患者に片っ端から本剤を投与をおこなうことは、物理的にも医療経済的にも不可能で、今回の特別承認において治療対象者は「酸素投与は行われていない、重症化リスクが1つ以上ある入院患者であること」が条件となりました。薬剤自体の薬価収載はおこなわれず、本剤は国からの無償配給という形になり、実際の使用にはコロナ診療をおこなう病院または有床診療所の申請登録、患者またはその家族の同意書が必要となります。現時点で我々のような無床診療所やホテル療養中の投与は認められていません。
【それでも大きな一歩】
上述のとおり、ロナプリーブの投与にはいくつかのハードルがあり、インフルエンザのように診療所で診断→即投与という代物ではないようです。しかし待望の軽症者に対する初の治療薬であり、これによって多くの重症化が抑制されれば、死亡率減少や医療ひっ迫の緩和にもつながるはずです。
そして将来、経口抗ウィルス薬の開発を経て、いよいよコロナとの共生が始まると期待しています。