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尼崎市東七松町にある「まつうら内科」院長 松浦邦臣です。
大阪、兵庫ではN501Y変異種(いわゆるイギリス型)によると推測される感染拡大に収まる気配がみえず4/5に蔓延防止等重点処置が適用されました。そんな医療体制逼迫のなか、先日厚生労働省より変異種の退院(退所)基準を、これまでのPCR2回陰性確認必須から変更し、発症から10日で症状が安定していれば、PCR陰性確認なしでの退院もしくはホテル療養からの退所を許可する、これまでのwild typeと同じ「10日ルール」が適用されることが通達されました。
【10日ルールとは】
そもそも10日ルールとは、2020.6月に厚生労働省が発表した、「発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快から72時間経過した場合に退院可能」とするCOVID-19患者さん用の退院(退所)基準のことです。1年前の今頃はまだCOVID-19のことがよく分かっておらず、まだホテル療養もなく、退院には2回のPCR検査での陰性確認が必要でした。しかし回復してなお、いつまでたってもPCR陽性が持続する症例があとを絶たず、退院できないからベッドが空かないという逼迫状況を引き起こしていました。ちょうどその頃、海外から「発症後2週間もたてばコロナの感染力はほぼ失われる」という報告があり、2020.5月に「14日たてばPCRなしで退院して良い」という14日ルールが作成され、その後さらに発症後8日で感染力が大幅に低下という詳細な研究結果を受け、それを追随する形で現在の「発症後10日たっていればPCRなしで退院して良いよ」という形に仕上がったのです。
当時、現場の我々からすると、「ホンマに退院させていいの?」と半信半疑でしたが、今振り返ると、あれは厚生労働省の英断だったなと素直に感心いたします。
【感染力がないのにPCRが陽性になるのは何故?】
PCR検査は、そもそも菌またはウィルスが、生きていようが、死んでいようが、とにかく、指定された遺伝子構造(塩基配列)が検体中に見つかれば「陽性」となる検査です。つまり、すでにウィルスが死滅していても、体内に残骸や破片が残っていて、たまたまその中に指定された塩基配列があって、たまたまそれを検体としてPCR検査を実施されると結果は「陽性」と判断されます。このようなことは今に始まったことではなく、我々の専門分野にある結核診療で昔からよく経験されてきました。結核患者さんを抗結核薬で治療していると、当然体内には結核菌の残骸や破片が散らばるので、治療後のPCR検査(もしくは塗抹検査)では、しばしば陽性となるのです。そこで我々は培養検査を駆使して、生菌ならば培養で生えてくるし、死菌ならば生えてこないということを確認しながら、治療経過を観察していました。
では、なぜCOVID-19も、培養検査で生死を判定しないのかというと、それはウィルス培養が、細菌(または抗酸菌)培養にくらべると非常に難しいという現実があるからです。細菌(または抗酸菌)培養はある程度おおきな病院や、検査施設で検査可能ですが、ウィルス培養はそれこそ大学病院や基幹病院、研究施設でしか検査できません。このためCOVID-19のPCR検査で陽性となった検体が本当に生きたウィルスを反映しているのかどうかを、手軽に判定する方法はいまだに無いのが現状なのです。
【変異種に10日ルールを当てはめてよいのか】
さて、PCR検査とはこのようなものでありますから、たとえ変異種であっても、PCRで2回陰性を確認しなければ退院できないというのは、そもそもナンセンスであったと言わざるを得ません。ただし、今回の変異種(N501Y:イギリス型)は、これまでのwild typeの感染力に比べると、その伝播可能日数は8→13日程度まで延長するという報告があり、さて、これに10日ルールを、そっくりそのまま当てはめてよいのかという点で疑問が残ります。少なくともN501Y変異種とわかっている症例は14日ルールに変更できればよいのでしょうが、今の病床ひっ迫を考えるとそれも難しいのかもしれません。であれば、せめて退院(もしくは退所)後、あと4日は自宅隔離を続けてくださいと注釈をつけてもいいんじゃないかと思うのですが…。
今回も、厚生労働省の英断に期待したいです。