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さあ、新しい経口コロナ治療薬「モルヌピラビル」の話をしましょう。

尼崎市役所から北へ車で1分、東七松町にある「まつうら内科」院長 松浦邦臣です。9/30に緊急事態制限が解除されてはや、2か月が経とうとしています。懸念されていたコロナ第6波もいまのところ流行の兆しはなく、イギリス、ドイツ,韓国などでの感染再拡大が嘘のように日本だけが平穏に感じるのは、おそらく日本国内では死滅したであろうデルタ株に変わる変異株(前回ブログ参照)が、まだ日本で流行していないことが一因なのでしょう。ただ経済活動のために鎖国ができない以上、いつかはあらたな変異株の流行に晒されるのは時間の問題といえます。今回第6波に備え、ワクチンに次ぐゲームチェンジャーとして期待される経口コロナ治療薬「モルヌピラビル」についてお話ししましょう。

 

【待ちに待った軽症患者への経口治療薬】

新型コロナウィルス対策の切り札として期待されるのが、アメリカ大手製薬会社メルクが開発し、現在FDA(米食品医薬品局)に緊急使用申請中の経口コロナ治療薬「モルヌピラビル」です。これまで日本で承認されたコロナウィルス経口治療薬には、すでにデキサメタゾン(デカドロン)、パリシチニブ(オルミエント)がありますが、そもそも抗ウィルス薬ではないうえ、それぞれ中等症、重症以上の患者が対象で、感染者のほとんどを占める無症状~軽症患者には投与することはできませんでした(投与しても効果がみられないからです)。抗ウィルス作用をもつ抗体カクテル療法「ロナプリーブ」は無症状の濃厚接触者、軽症者への効果がみとめられていますが、いかんせん点滴薬で、かつ一定の投与条件が必要とされるため、インフルエンザのごとく診断→即治療というわけにはいきません。

 

【入院死亡リスクを半減。効果がありすぎて治験が中止に。】

米メルク社は、重症化のリスクのある軽症~中等症の患者を対象にモルヌピラビル1日2回×5日間の治療で、プラセボ(偽薬)群と比較して、入院死亡リスクを半減させた治験データを発表しました。じつはこれ中間報告のデータでしたが、プラセボ群との差が歴然とついてしまい、これではプラセボ群に振り分けられる患者さんがあまりにもかわいそう(治験参加者も医師も本物か偽薬かわかりません)となって治験を中止し、予定よりはやく10/11FDAに申請が行われました。FDAは早ければ年内にも承認するのではないかといわれています。日本政府はすでにメルク社と160万回分の契約を済ませており、年内に20万回分、来年2月3月にさらに20万回分ずつ納入されることが決まっていて、のこり100万回分も国内用に確保したと報道されています(頑張りましたね!)。日本はレムデシビル、パリシチニブ同様、FDAの承認後に特例承認をするでしょうから、早ければ来年早々にも治療が可能になるのではないでしょうか。ちなみにイギリスはモルヌピラビルをすでに承認したそうですよ(開発国のアメリカより前に承認するってどうなん?)。

 

【感染後のウィルス増殖を防ぐRNAポリメラーゼ阻害薬】

ウィルスがヒト細胞内で増殖するには2つの過程が必要とされています。

①「RNAポリメラーゼ」という酵素を使って、ウィルスの遺伝子情報であるRNAを複製すること。

②「3CLプロテアーゼ」という酵素を使って、そのRNAを包み込むたんぱく質の殻を作成すること。

上記の過程で作成されたRNAとたんぱく質の殻が合わさると、あらたなコロナウィルスがわんさかと誕生し感染したヒト宿主内にばらまかれます。さらには飛沫感染を介して次から次へと人へ伝播して感染が拡大してしまいます。

①の「RNAポリメラーゼ」を経口治療薬で阻害するのが「モルヌピラビル」で、ウィルスのRNA複製を阻害することでウィルス量を減らして感染したヒト宿主を守り、さらには他人への感染リスクを低減できます。この作用機序の経口薬は他にもスイスロシュ社(ロナプリーブの会社です)も開発していて、現在治験をおこなっています。

②の「3CLプロテアーゼ」を阻害する経口薬は、米ファイザー社や日本の塩野義製薬が開発中で、とくにファイザー社の「パクスロビド」はその効果なんと、入院死亡リスク89%減だそうです!(近くFDAに申請予定)。塩野義製薬は年内にも最終段階の治験を国内で開始する予定でしたが、これだけ国内での感染者が激減していると年内の承認申請は難しくなったかもしれません。

どちらもコロナ変異がおこるスパイクとは違う部分での薬効なのでミュー株を含む変異種にも効果をみとめると期待されています。

 

【タミフルような存在になれるか!?】

まだ詳しい発表はありませんが、モルヌピラビルによる重篤な副作用の報告はなく、経口治療薬として簡便に使用できるとされています。しかしすぐにインフルエンザのタミフルにように、かかりつけ医で診断、即治療となるかというと、いくつか問題がありそうです。

一つ目は供給不足。来年3月までに日本全体で60万回分となると、かかりつけ医の門前薬局で手軽に手に入るとはとても思えません。

二つ目は価格。5日間の治療でおよそ4-8万円前後かかるのではないかといわれており、保険診療(1-3割負担)でとても賄いきれるものではありません。

以上を考慮すると、いきなりジェネリックで700円程度(3割負担)のタミフルと同じような診療形態をとれるとは、到底考えられず、しばらくは公費に頼らざるを得ないでしょう。となると年初は処方医や、扱える薬局も限られてくるのではないでしょうか。もちろん他社の経口治療薬も普及するようになれば、状況もかわるでしょうが、いまはまだ楽観的に薬に頼るのではなく、ひとりひとりの感染予防対策によって流行の波を抑えることが引き続き重要だと考えます。

 

 【なぜ、モルヌピラビルの色はあんなに毒々しいのか(笑)】

最後になりますが、みなさん「モルヌピラビル」のカプセルの色が、まっ赤っ赤なの気になりません?。私の感覚からすると、薬になぜ毒々しい(笑)色を選ぶのかと不思議だったのですが、当院にかかりつけの患者さんで、コロナ前まで長く海外赴任されていた方から「海外は識字率が日本ほど高くないから、色で治療薬を見分けられるようにしたんじゃないかな」と教えていただき、あーなるほど、そういう考え方があったかと得心しました。

まぁ、この推論が本当かどうかはメルク社の社長に聞いてみないとわかりませんけどね。

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